耳鳴りは、現代医学をもってしても不明な点がまだ多く、完全に治すことが非常に困難な症状です。さまざまな薬が試されていますが、耳鳴りそのものを消す薬は、まだありません。
しかし、近年では「耳鳴りが気になって集中できない」「耳鳴りがうるさくて眠れない」といった不快な症状を和らげる治療法の研究が、格段に進んできました。耳鳴りの音そのものを小さくしたり消したりするのではなく、耳鳴りを「気にならない状態」にして、ごく普通に日常生活が送れるようにすることが、目的の治療法です。その代表的な方法が、「TRT」(耳鳴り再訓練法) と呼ばれる治療法です。
TRT は1 994年にアメリカで考案され、2002年に日本に導入されました。一般にこの方法で、8 割程度の耳鳴りが軽減すると報告されています。
TRTは、「耳鳴り順応治療法」ともいいます。私たちは、常にさまざまな音に囲まれて生活していますが、脳はすべての音を認識しているのではなく、関心のある音だけを選んで認識しています。
例えば、大きな声でなくても、人通りの激しい交差点で名前を呼ばれると、ちゃんと耳に入ってきます。このように、私たちの脳は、自分にとって重要である、危険であると思われる音だけを判断して選択的に認識し、ほかの音は素通りさせているのです。そして、重要または危険ではないと脳が認識した音は、しだいに慣れて気にならなくなります。これを「順応」といいます。耳鳴りを感じる人はたくさんいますが、ほとんどの人は耳鳴りに慣れてしまい、普段はさほどつらいと感じていません。
反対に、耳鳴りが気になって不安感を強く抱いていると、脳が耳鳴りを「必要な音」「危険な音」として優先的に認識してしまい、その結果、ますます耳鳴りがひどくなってくるのです。
TRT の目的は、耳鳴りに順応できるように脳を再訓練することです。具体的な治療の進め方は、次の2つからなります。最初が、カウンセリングです。耳鳴りの強さや聴力などの検査後、耳鳴りが起こるメカニズムや、なぜ耳鳴りを苦痛に感じるのか、といった知識を丁寧に説明します。
患者さんの希望や状況に応じて、臨床心理士が面談を行うこともあります。耳鳴りを必要以上に気にして不安に感じていると、脳が耳鳴りを過剰に意識して、それが耳鳴りをさらに悪化させる、という悪循環が生じます。耳鳴りについて正しく理解することで、不安の解消につながります。このカウンセリングだけで耳鳴りが緩和されるケースも、たくさんあります。
もう一つが、別の音を使って耳鳴りに慣れる「音響療法」です。音を聞き続けることで、耳鳴りも「危険な昔ではない」と脳に認識させることが、音響療法の目的です。波の音や川のせせらぎなど環境音のC Dや、ラジオの音声などを利用しても効果がありますが、「サウンドジェネレーター」という専用の機器もあります。サウンドジェネレーターは補聴器に似た形の機器で、「ザー」といった単調な4種類の音が出ます。
自分に合った治療音を、耳鳴りが完全に消えない程度の音量に調整して、1日に6 〜8時間聞きます。これを1〜2年は続ける息の長い治療ですが、その効果は、だいたい次の3段階で表れてきます。第1段階は、治療音があることで耳鳴りをらくに感じてきます。静寂な環境だと耳鳴りが余計に気になりますが、耳から治療音を入れることで、耳鳴りに意識が集中するのを避けることができるのです。軽い耳鳴りであれば、これで十分です。第2段階は、耳鳴りによって生じる苦痛が軽減されます。イライラする、眠れない、仕事に集中できない、といったことが大きく改善されます。第3段階では、順応が起こってきます。
多くは、第1段階までに3ヶ月、第2段階までに半年程度かかり、第3段階までには、1年くらいかかります。一度、脳が耳鳴りに順応するようになれば、効果はほぼ永続的です。治療にかかる費用は、健康保険が通用されますが、サウンドジェネレーターそのものには健康保険が適用されず、実費負担となります。機器には4万6000 円のものと、6万3000円のものとがあります。通院は月1回程度で、医師によるカウンセリングがあります。
若いころ頭痛持ちで、年齢を重ねるうちに頭痛は下火になった一方、耳鳴りやめまい、不眠や抑うつ感、イライラといった症状が、日立ってきた人はいませんか。
耳鼻咽喉科や婦人科などで検査を受けても異常は見つからず、「原因不明の耳鳴り」「更年期障害の症状でしょう」などと言われ、年のせいだからしかたがない、とあきらめている人も多いようです。
従来の頭痛とは違うタイプの頭痛があることに気付き、「脳過敏症侯群(新型頭痛」と命名し、2010年に学会で発表しました。冒頭で挙げたようなケースは、脳過敏症候群による耳鳴りやめまいの、典型的な発症パターンです。
脳過敏症候群とは、片頭痛を放置した結果、長年の問に、頭痛が消失しても脳が慢性的に過敏になってしまった状態をいいます。片頭痛は、いわゆる慢性頭痛(明らかな原因の見当たらない頭痛) の代表格です。
女性に多く、片頭痛の発作が起こると、数時間から数日間、ズキンズキンという心臓の拍動に合わせるような頭痛が続きます。頭痛以外の症状を伴うのも片頭痛の特徴で、吐き気や嘔吐、下痢を伴ったり、光や音に過敏になつたり、騒々しい場所やまぶしい場所で痛みがひどくなったりすることもあります。
片頭痛は単なる痛みではなく、その水面下では、脳の異常な興奮が起こっています。片頭痛の持ち主は、脳が興奮しやすく、ちょつとした気候や体調の変化、光や音、においなどの刺激を、敏感に受け止める傾向があります。
これらの変化や刺激が誘因となて、脳の神経伝達物質であるセロトニンが増減すると、脳の血管が拡張し、その刺激にょって、周囲の神経から炎症を起こす物質が放出されます。すると、脳の血管が一段と膨れ上がり、この情報が大脳に伝えられて、激しい頭痛として認識されるのです。
このような片頭痛に対し、「ただの頭痛」と考えて痛みを我慢したり、市販の頭痛薬で痛みを取り除くだけの対処をしたりしていると、脳の異常な興奮が慢性化してしまいます。
片頭痛の発作を長年くり返すうちに、脳の過敏性は増大していきますが、加齢とともに痛みの性質は変わっていきます。年を取ると、血管の柔軟性がなくなって拡張しにくくなるため、頭痛は起こりにくくなりますが、代わりに慢性的な頭重感やめまい、耳鳴り、頭鳴(頭全体に雑音が響くような症状)、不眠など、頭痛以外の症状が出てくるのです。
片頭痛の根本原因である、脳の過剰興奮や炎症物質の放出そのものを止める薬(トリブタン製剤) が日本で使われるようになつたのは、約10年前からです。それ以前の時期であれば、片頭痛治療を受けていたとしても、脳の興奮状態が慢性化している可能性が高く、脳過敏症侯群の予備軍といえます。
では、脳過敏症侯群による耳鳴りやめまいには、どう対処すればいいのでしょうか。まず、取り組みたいのは、脳への刺激が強過ぎない住環境づくりです。
明る過ぎる部屋、強い香りなどは脳を興奮させます。カーテンなどで工夫し、適度な明るさの照明に替えます。また、タバコや芳香剤は避け、こまめに換気を行うなど、住まいの環境を見直しましょう。また、テレビを長時間見ていると、出演者の笑い声や効果′音、フラッシュなど激しい光の点滅が、過剰な刺激になることもあります。テレビを見るときは、部屋を明るめにして離れて見ること。画質調節で柔らかな画質にしたり、音量を絞ったりするなどの工夫をしましょう。暗い場所で携帯電話や携帯ゲームの画面を見るのも、よくありません。外出時は、コンサート会場や人込みなど、刺激の多い場所は避けたほうがよいでしょう。乗り物を利用するときも、要注意です。
乗り物特有のにおいや振動、飛行機での気圧の変化などが刺激になることがあります。長距離移動の予定があるときの前日は、十分に寝て体調を整えておきます。
それでも症状に悩まされる場合は、専門医の治療を受けましょう。脳過敏症侯群の診断には、脳波の検査が不可欠です。
通常の脳波は強弱をくり返す波形になりますが、脳過敏症候群の脳波は乱れた波形を示します。頭痛外来や脳外科、神経外科などで、脳過敏症侯群に理解のある医師の診断を受けることが重要です。
片頭痛を長年放置したことが原因の脳過敏性症候群は、完全に治るには半年以上かかりますが、地道な通院治療で完治も可能です。症状のタイプに応じて、脳の興奮を抑える薬(抗てんかん薬など) や、神経伝達物質の量をコントロールする薬(抗うつ剤)などを使用します。
片頭痛についてはこちら。
耳鳴りに効果があるといわれる食品に、「ハチの子」があります。ハチの子は、スズメバチャミツバチなどのオスの幼虫です。長野県や岐阜県などでは昔からこれを食用にし、動物性たんばく質の補給源にしてきました。
実際に、ハチの子にはアミノ酸が豊富で、必須アミノ酸(体内ではつくられないアミノ酸)がすべて含まれています。患者さんの中にも、ハチの子で耳鳴りが改善した人がいます。
まず、その症例をご紹介しましょう。Aさん(30代後半・男性) は3年前、仕事の関係で関西から東京に引っ越して来ました。その環境の変化からメニエール病を発症し、常に「キーン」という耳鳴りと、耳がふさがれるような耳閉塞感に悩まされていました。
Aさんは身長157cm、体重43kgというやせ形で、カゼをひきやすく、がんこな冷え症がありました。
漢方では、まず証(体質のようなもの)を診てから薬を処方しますが、Aさんは典型的な「虚証」タイプでした。
虚証とは、体が華奢で顔色が悪く、皮膚にツヤのない、全体的に体質の弱いタイプです。反対にがっちりした体格で顔色がじっよく、体力のあるタイプを「実証」といいます。
漢方では体質を6つのタイプに分類して漢方薬を処方します。
初心者にもわかりやすい漢方薬【体質をチェック】
「ハチの子」はアミノ酸が豊富な滋養強壮食品で、体力をつけるにはもってこいです。
そこでAさんに、「ハチの子」の粉末食品を毎日飲むように勧めました。効果は、思った以上に早く表れました。
「ハチの子」を飲み始めてわずか1週間で、耳鳴りが軽くなってきたのです。
さらに続けたところ、1ヶ月後にはほとんど気にならなくなりました。
Aさんの話では、以前を10とすると2くらいまで耳鳴りが軽減したそうです。
すっかり気をよくしたAさんは、ここで「ハチの子」の使用量を減らしました。
すると、せっかく治っていた耳鳴りが、またぶり返してしまったのです。
そこで、再び「ハチの子」の粉末食品を取るようにしたところ、2ヶ月後には完全に耳鳴りが消失。耳閉塞感もなくなりました。
しかし、効果はそれだけではありませんでした。
あんなにがんこだった冷え症まで改善したのです。
このことから推測できるのは、「ハチの子」は耳だけでなく、体質に作用しているということです。
おそらく「ハチの子」で体質改善が図られ、全身状態がよくなったために、耳鳴りも改善したのでしょう。
耳鳴りのある人は、指で数を数えるときのように、自分の指を1本ずつ曲げたり伸ばしたりしてみてください。薬指や小指が動かしにくかったり、曲げにくかったりしていないでしょうか。
そういう違和感のある指を刺激すると、耳鳴りが改善することがよくあります。両手の薬指と小指には、耳鳴けいらくりに関係の深い経絡が通っています。経絡とは、東洋医学でいきう気( 一種の生命エネルギー)の通り道で、薬指に三焦経、小指には心経と小腸経という経絡が通っています。
気の流れが滞ると、首が引きつれることがあります。耳の機能の低下は、首のこりや痛みなどの不調に起因していることが多く、三焦経が通っている首の部分には、天席や翳鳳という耳鳴りのツボがあります。一方、心経は水(水分) の代謝に関係があります。一方、心経は水(水分)の代謝に関係があります。水分代謝が悪くて内耳に水がたまっているようなときには、心経を刺激すると水が抜けていきます。心経が通っているひじ周辺には、しようかいせいれい少海、青霊という耳鳴りによく効くツボがあります。
そこで、もし薬指に違和感があったり、首が引きつれたりするようなら薬指を、小指に違和感があるようなら小指を刺激してください。三焦経が通っている薬指を刺激すると、首の引きつれやこりなどがよくなり、耳鳴りも改善するのです。
心経が通っている小指を刺激すると、内耳の水分代謝がよくなつて、耳鳴りが改善していきます。薬指や小指への刺激は、三焦経、心経、小腸経の気の流れを整えるので、その経絡上にある耳鳴りのツボを刺激するのとほぼ同じ効果が得られるのです。刺激法ですが、私は、指を左右にひねる「指ひねり」を皆さんに指導しています。そのやり方は次のとおりです。
○薬指の指ひねり
薬指の爪の両サイドを、反対側の手の親指と人さし指で軽く振ります。そのまま左右にひねるように回します。場所をずらして、第1関節(最も指先よりの関節)、第2関節(指先から二番目の関節)も同じヰっにひねりましょ、う。
○小指の指ひねり
小指も同様に、爪の両サイドを親指と人さし指でつまみ、左右にひねります。第一関節、第二関節も同様に行います。
どちらも、気持ちよいくらいの強さで、指関節をもみほぐすようにひねってください。1本の指を、3分くらい続けます。長くやり過ぎると指が痛くなりますから、気を付けてください。
ひねる指は、耳鳴りの症状が出ている側と同じ例の指に行います。耳鳴りが右耳にあれば右手の薬指か小指、両耳なら両手の薬指か小指に行います。どちらの指を刺激していいかわからないときは、薬指と小指の両方をひねるといいでしょう。
指ひねりは、経絡を調整するほかの治療法に比べて非常に簡単なので、いつでもどこでも、1人でできます。しかも、私の経験では、きわめて効果が高い方法といえます。
ところで、指先の刺激がなぜ離れた耳の症状に効果があるのか、不思議に思う人もいるでしょう。しかし、全身は経絡でつながっています。ですから、指先の刺激で経絡が整うと、その影響が経絡を介して全身に及ぶのです。指ひねりは、耳鳴りが気になるときに、いつでも行ってください。また、普段から指ひねりをしていると、耳鳴りの予防にもなります。西洋医学で耳鳴りせ完治させるのは、難しいといわれています。だからこそ、指ひねりのような方法を、少しでも耳鳴りの改善に役立てていただきたいと思います。※
めまいや耳鳴りが起こる大きな原因の1つに、内耳の血流不足があります。こまく内耳は、鼓膜のさらに奥に位ぜん置する器官で、その中には「前庭」と呼ばれる、体の平衡感覚をつかさどる部分があります。
この前庭において血流が滞ると、平衡感覚が乱れ、その結果、めまいや耳鳴りが起こるのです。そのため、めまいや耳鳴りの治療では、内耳の血流をよくする血管拡張薬や血流促進薬を処方します。
しかし、薬に頼らずに、家庭で簡単に症状を解消できる方法があります。それは、毎日欠かさず生姜を取ることです。生姜の辛味成分であるジンゲロールヤショウガオール、清涼感をもたらすガラノラクトンなどの成分が、内耳を含めた全身の血管を拡張させ、血流を促進してくれるのです。
生姜が内耳の血流促進に効果があることは、私が行った実験でも確かめられています。これは、乗り物酔いに生姜が有効かどうかを調べた実験です。
乗り物酔いは、めまいや耳鳴りと原因が似ていて、内耳の中の前庭で平衡感覚が乱れることによって起こります。乗り物の不規則な振動によっじせききて、前庭にある耳石器(加速度・重力・遠心力などを感受する器官) の働きが一時的に阻害され、内耳の血流が滞り、平衡感覚が乱れてしまうのです。原因が似ているということは、乗り物酔いの防止にショウガが効果的ならば、めまいや耳鳴りにも効果がある、と推測できるはずです。実験では、「重心動揺計」という装置を使いました。
重心動揺計とは、人の平衡感覚の良しあしを測定する装置です。検査台の上に立ってもらい、そのさいの揺れの激しさや方向がグラフで示され、平衡感覚が保たれていれば、グラフ中の体の揺れを示す軌跡が中心部に集中して表れます。
実験では、被験者を2つのグループに分けました。一方のグループは何も取らず、もう一方のグループには、前もって生姜を一定量取ってもらいました。両グループとも、被験者に左右に360度回転するイスに座ってもらい、そのイスを不規則にグルグルと回転させました。すると、何も取らなかったグループの被験者は、しだいに気分が悪くなり、その時点で回転を止めて重心動揺計に乗ってもらったところ、体の揺れを表す軌跡には大きな乱れが生じていました。
一方、前もって生姜を一定量取ってもらったグループは、イスをある程度回転させてもなかなか気分が悪くなりません。重心動揺計に乗ってもらっても、グラフの軌跡は回転イスに乗る前とほとんど変わらず、中央部に集中していました。この結果は、乗り物酔い防止に生姜が有効だ、ということを示しています。
そして以上のことから、生姜が、めまいや耳鳴りにも大きな効果があると推測できるのです。私自身の見解では、生姜は、内耳の内部を満たしているリンパ液(体内の老廃物を運ぶ無色透明な体液) が異常に増えて、めまいや耳鳴り、難聴などを招くメニエール病、女性の場合は、更年期障害にも極めて有効だと考えています。
では、めまいや耳鳴りを改善させるために、生姜ガをどう取ればいいのでしょうか。そこでお勧めしたいのが、生姜紅茶です。ポイントは、1日10g程度の分量を毎日欠かさず取ることです。
親指大のショウガを皮付きのまますりおろし、それを紅茶に入れて、毎日、飲むだけです。紅茶に入れると、生姜の辛味が取れ、飲みやすくなります。
生姜は、小ぶりで、切り口が濃い黄色をしたものを選びましょう。こうした生姜には、ジンゲロールやガラノラケトンなどの有効成分が豊富に含まれているからです。
飲む時間は、朝がお勧めです。体が冷えやすい朝は、血の巡りも鈍くなっています。そこでショウガ紅茶を飲めば、血流が促進され、めまいへの効果も高まるでしょう。
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